お金の不安を見ないふりしないノート|数字を責めずに眺める練習

スマホの銀行アプリを開こうとして、指が止まる。通知バッジの数字だけ見て、結局アプリを閉じる。そんな日が、何日も続いている人は少なくありません。
ある女性は、毎月25日の給料日の前後だけ、口座を確認する習慣になっていました。それ以外の日は、見ないようにしている。「見たら、減っていることに気づいて、落ち込むから」というのが、彼女の説明でした。実際に確認してみると、思っていたよりは減っていなかったのですが、「見ない」という選択を続けているうちに、残高そのものへの不安は、むしろ大きくなっていったといいます。見ないことは、不安を消す方法ではなく、不安を、確認できないまま心の中で膨らませる方法になっていたのです。
お金の不安は、避けるほど大きくなることがあります。これは、お金そのものの問題ではなく、「見ない」という対処法が、不安を扱う上で、あまり効果的ではないという、心の仕組みの問題です。
数字はあなたを責めるためのものではない
口座の残高を見るのが怖いという感覚の奥には、たいてい、「この数字を見たら、自分がダメな人間だと証明されてしまう」という思い込みがあります。
でも、残高という数字は、あなたという人間の価値を測るものではありません。数字は、ただの記録です。今月、こういう出来事があって、こういうお金の動きがあった、という履歴を示しているだけです。
たとえば、体重計に乗るのが怖い、という感覚を持つ人がいます。これも、数字そのものが怖いわけではなく、「その数字が、自分の頑張りや価値を判定するもの」だと、思い込んでいることが多いのです。体重計の数字も、銀行の残高も、ただの記録であって、判定でも、罰でもありません。
この区別を、はっきりさせておくことが、不安と向き合う最初の一歩になります。
残高を見る前に、呼吸を整える
先ほどの女性は、ある時期から、口座を確認する前に、必ず一回、深く呼吸をするという小さなルールを作りました。スマホを開く前に、椅子に座って、目を閉じて、ゆっくり一回、息を吸って吐く。それから、アプリを開く。
このたった数秒の準備によって、何が変わったのか。彼女自身の言葉では、「数字を見た瞬間に、いきなりパニックになるのではなく、『あ、これくらいか』と、一歩引いて見られるようになった」とのことでした。
緊張した状態のまま数字を見ると、脳は、その情報を「危険」として処理しやすくなります。逆に、少し落ち着いた状態で見ると、同じ数字でも、「ただの情報」として処理しやすくなる。この準備の一呼吸は、数字そのものを変えるものではありませんが、数字を受け止める自分の状態を、確実に変えてくれます。
不安を書き出して、行動と感情を分ける
残高を見たあとに、不安が湧いてきたとき、その不安を、頭の中だけで処理しようとすると、堂々巡りになりやすいものです。「どうしよう」という言葉が、具体的な内容のないまま、ぐるぐると回り続けてしまう。
ここで役立つのが、不安を、紙に書き出して、感情の部分と、行動の部分を、分けて整理することです。
たとえば、「今月、思ったより出費が多かった」という事実があったとき、まず、感情の部分を書きます。「焦り」「情けなさ」「来月も同じになるかもしれないという不安」。これらは、ただ感じているものとして、そのまま書き出します。
次に、行動の部分を書きます。「来月、固定費を一つだけ見直してみる」「今週は、外食を一回減らしてみる」。これは、感情とは別に、実際に取れる、小さな一歩です。
感情と行動を分けて書くことで、「不安だから、何をすればいいかわからない」という、もやもやした状態から、「不安はあるけれど、できることは、これだけある」という、整理された状態に変わっていきます。
お金を静かに眺める月1ノート
最後に、月に一度だけ行う、お金との付き合い方を整えるノートをご紹介します。
毎月、決まった日(給料日や、月末など、自分にとって確認しやすい日)に、十分ほど時間を取ります。まず、先ほどの一呼吸を行ってから、口座やアプリの残高を確認します。
そのうえで、ノートに三つのことを書きます。一つ目は、「今月、お金に関して、よかったこと」。小さなことで構いません。「無理なく必要なものが買えた」程度でも十分です。二つ目は、「今月、お金に関して、気になったこと」。三つ目は、「来月、ひとつだけ試してみたいこと」。
このノートを続けていくと、お金は、「見ると怖いもの」から、「月に一度、静かに眺める対象」へと、少しずつ位置づけが変わっていきます。お金との関係は、一度の決断で変わるものではなく、こうした小さな確認を積み重ねることで、ゆっくりと、落ち着いたものになっていきます。





