願いを人に説明しすぎない|静かに育てる期間の使い方

新しいことを始めようと思った日、友人に会うたびに、その話をしていた女性がいました。
「実は、こういうことを始めようと思っていて」と説明し、相手の反応を見て、また少し説明を加える。一人に話すと、なんとなく安心するので、また別の人にも、同じ話をする。
最初の数回は、話すたびに、気持ちが盛り上がっていくような感覚がありました。けれど、十人目くらいに同じ話をしたころ、彼女は、不思議なことに気づきました。
「最初の頃より、なんだか、その願いに対する熱量が、下がってきている気がする」
誰かに反対されたわけでも、否定されたわけでもありません。むしろ、ほとんどの人が、好意的な反応をしてくれていました。それでも、話す回数が増えるほど、その願いが、彼女自身の中で、少しずつ、輪郭がぼやけていくような感覚があったのです。
説明しすぎると、願いの熱が散ることがある
なぜ、好意的な反応をもらっているにもかかわらず、話すほどに、願いの熱量が下がっていくことがあるのでしょうか。
一つの理由として、説明を重ねるたびに、その願いが、自分だけの内側にあるものから、外に向けて発信する「情報」へと、少しずつ変わっていくことが関係しています。
何かを、心の中で大切に思っている状態と、それを言葉にして、何度も外に向けて説明している状態とでは、心の中での扱われ方が変わってきます。説明するたびに、相手にわかりやすく伝えるための、簡略化された言葉が使われるようになり、その言葉を繰り返すうちに、最初に感じていた、もっと複雑で、繊細な感覚が、少しずつ薄れていってしまうことがあるのです。
これは、誰のせいでもありません。ただ、願いというものは、外に向けて発信するエネルギーと、内側で育てるエネルギーが、限られた量の中で、配分されているのかもしれません。
理解される前に、自分がわかってあげる
先ほどの女性が、なぜ、十人もの人に、同じ話をしていたのか、振り返ってみると、こんな理由が見えてきました。
「自分の中で、まだ、この願いについて、はっきりと整理できていなかった。だから、人に話すことで、自分の考えを整理しようとしていた」
これは、よくあることです。自分の願いが、まだ自分の中で、十分に言葉になっていないとき、人に話すことで、その輪郭を確かめようとする。けれど、本当に必要だったのは、誰かに説明することではなく、まず、自分自身が、その願いを、丁寧に理解してあげることでした。
人に説明する前に、自分の中で、その願いについて、十分に整理しておく。これができていれば、人に話すときも、自分の輪郭がぶれることなく、安定した状態で、伝えることができます。
話すことで強まる願い・弱る願い
ここで、一つ、見分け方の視点をご紹介します。すべての願いが、人に話すことで弱るわけではありません。
応援してくれる人に、必要な範囲で話すことは、むしろ、願いを強める助けになることがあります。たとえば、具体的に協力してほしいことがある場合、信頼できる相手に、丁寧に説明することは、願いを実現するための、大切な一歩です。
一方で、特に必要のない場面で、ただ気持ちを共有したいという理由だけで、何度も同じ話を繰り返すことは、先ほどの女性のケースのように、願いの輪郭を、少しずつ薄めてしまうことがあります。
話す相手と、話す目的を、少し意識してみることで、願いを強める話し方と、弱めてしまう話し方を、見分けやすくなります。
途中段階の願いは、未完成のままでいい
ここで、大切なことをお伝えします。願いは、誰かに説明できるくらい、はっきりと整理されていなければならない、というルールはありません。
先ほどの女性も、最初に願いに気づいたとき、その願いは、まだ、ぼんやりとした、未完成な状態でした。それを、無理に整理して、人に説明できる形に仕上げようとしたことが、かえって、その願いを、本来とは違う形に、少しずつ変えてしまっていたのかもしれません。
未完成の願いは、未完成のまま、しばらく、自分の中だけで持っていてかまいません。誰かに説明できるレベルまで、急いで整理する必要はありません。
静かに育てる期間のノート術
最後に、願いを、静かに育てるための、簡単なノート術をご紹介します。
新しい願いに気づいたら、まずは、誰にも話さずに、ノートにだけ書いてみる期間を、しばらく作ってみてください。期間の長さは、自分の感覚で決めて構いません。一週間でも、一ヶ月でも。
その期間中、その願いについて、思いついたことを、整理しようとせずに、ただ、書き留めていきます。「今日、こんなことを思いついた」「この部分について、まだよくわからない」というように、未完成な状態のまま、記録していきます。
その期間が過ぎて、自分の中で、ある程度、輪郭がはっきりしてきたと感じたら、初めて、信頼できる相手に、必要な範囲で、話してみる。
このように、話す前に、静かに育てる時間を持つことで、願いは、外の反応に左右されすぎることなく、自分の中で、しっかりとした根を持つことができます。





