流れが速すぎて怖い時|良い変化をゆっくり受け取る方法

新しい仕事の依頼が、続けて三件、同じ週に入ってきた。
ある男性は、独立してから、なかなか仕事が増えずに苦労していた時期を、長く過ごしていました。ようやく軌道に乗り始めたころ、ある週、それまで何ヶ月も連絡のなかったところから、急に三件、続けて依頼が入ってきたそうです。
普通であれば、喜ぶべき出来事です。けれど、彼は、その週、なぜか、ずっと落ち着かない気持ちで過ごしていたと振り返っていました。
「こんなに急に良いことが続くと、逆に、何か悪いことが起きるんじゃないかと、怖くなった」
彼は、結局、依頼の一つを、納期に無理があるという理由をつけて、断ってしまいました。後から振り返ると、実際には、調整すれば対応できる範囲だったことに気づいたそうです。
良い変化が、急に、まとめてやってくるとき、人は、喜びと同時に、説明のつかない怖さを感じることがあります。これは、わがままでも、欲がないわけでもありません。
良いことが続くと不安になることがある
なぜ、良いことが続くと、喜びだけでなく、不安も一緒にやってくるのでしょうか。
私たちの心は、変化そのものに対して、警戒する仕組みを持っています。これは、良い変化であっても、悪い変化であっても、同じように働きます。
長く苦しい時期を過ごしてきた人ほど、その「いつもと違う状態」に対して、強く警戒心が働きやすくなります。先ほどの男性も、独立してからの数ヶ月、ずっと「次の依頼が来るかどうか、わからない」という状態に慣れてしまっていました。だからこそ、急に三件続けて依頼が来るという、「いつもと違う、良すぎる状態」に、心がついていけなかったのです。
これは、あなたが幸せを受け取る能力に欠けているという話ではありません。長く続いた状態から、急に違う状態に変わるとき、心が、その変化のスピードに、戸惑ってしまう、というだけのことです。
変化の速さに心が追いつかない時
変化そのものは、決して悪いものではありません。問題は、変化の「速さ」と、心が、それを受け止められる「ペース」との間に、ずれが生じることです。
先ほどの男性のケースで言えば、依頼が三件入ってきたこと自体は、何も問題のない、嬉しい出来事でした。ただ、それが、あまりにも急に、まとめてやってきたために、彼の心は、その状況を、十分に整理する時間を持てなかったのです。
ゆっくりとした変化であれば、人は、その都度、少しずつ適応していくことができます。けれど、急激な変化は、適応する時間を、十分に与えてくれません。だからこそ、急な良い変化に対して、怖さを感じるのは、ごく自然な、心の防衛的な反応なのです。
受け取る量を少しずつ増やしていい
ここで、大切な視点をお伝えします。良い変化を、一度にすべて受け取らなくても構いません。
先ほどの男性が、三件のうち一件を断ってしまったこと自体は、悪い判断だったとは言えません。本当に対応が難しかったのであれば、断ることは、誠実な選択です。ただ、もし、対応できる余裕があったのに、怖さだけで断ってしまったのだとしたら、それは少し、もったいない判断だったかもしれません。
良い変化を、一度に大きく受け取ることに怖さがあるなら、受け取る量を、少しずつ増やしていく、という方法があります。たとえば、すべての依頼を引き受けるのではなく、一件は今受け、もう一件は、少し納期を相談してみる、というように、無理のない範囲で、受け取りを調整していくのです。
これは、チャンスを逃すことではありません。自分が、安心して受け取れるペースを、大切にしながら、その良い流れを、確実に自分のものにしていく、という工夫です。
怖さを止めるサインではなく調整の合図にする
良い変化に対する怖さが出てきたとき、その怖さを、「これは止まるべきサインだ」と受け取ってしまうと、先ほどの男性のように、せっかくの機会を、丸ごと手放してしまうことになりかねません。
ここで、怖さの受け取り方を、少し変えてみてください。怖さは、「止まれ」というサインではなく、「もう少し、自分のペースに調整しよう」という、合図かもしれません。
完全に断る、または、すべてを無理に受け入れる、という二択だけでなく、その間にある、「一部を受け取り、一部は調整する」という選択肢を、思い出してみてください。怖さが出てきたとき、まず、その怖さに、丁寧に向き合いながら、調整できる部分を探してみる。これだけで、良い変化を、無理なく受け取れる可能性が、ぐっと広がります。
良い変化に慣れるための安心ノート
最後に、急な良い変化に戸惑ったときに使える、簡単なノートワークをご紹介します。
その出来事があった日に、こんな問いに答えてみてください。
「今、起きている良い変化は、具体的に、どんなものですか」。
「この変化に対して、怖さを感じている部分は、どこですか」。
「その怖さは、『止まれ』というサインでしょうか、それとも、『少し調整しよう』という合図でしょうか」。
「無理なく受け取れる範囲は、どのくらいでしょうか」。
これらの問いに答えていくことで、怖さに飲まれて、せっかくの良い変化を、丸ごと手放してしまう前に、自分にとって、ちょうどいい受け取り方を、見つけやすくなります。
良い変化は、すべてを一度に受け取らなくても、少しずつ、自分のペースで受け取っていけば、十分です。





